『うつ病九段』を読んで

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『うつ病九段』を読んで

2020/07/28

先日患者さんからありがたいことに本を頂きました。

 

その本が『うつ病九段』という本で著者の先崎学さんはプロ棋士でしたが2017年7月にうつ病を発症し約一年に及ぶ闘病を経て回復していく過程をご本人の体験や感覚をもとに書かれた本です。

 

しかも本の後半に書かれていて驚いたのはまだうつの症状を抱えていた2018年1月から3か月くらいかけて書いたそうなのでまさに生の声と言えるかと思います。

 

私自身精神科の領域に興味はありますが教えて頂いている先生からは非常にセンシティブな領域でこと治療に関しては安易に介入してはいけない領域だと教わっているのでこと治療に関しては注意しています。

 

今回はその本の中から印象的な部分を抜粋したいと思います。

 

意外なのは楽しく過ごしたご自身の47歳の誕生日の翌日から頭が重くなり一週間が過ぎたころからどんどんひどくなり寝起きが苦しくなる一方で朝4時には目覚めてしまうようになったそうです。

 

ちょうど先崎さん監修の映画の封切りや将棋の順位戦の初戦。「不正ソフト使用疑惑事件」などで日本将棋連盟自体も連日深刻な話をしていたそうです。

それらの疲労が蓄積したのか順位戦では全く集中できず敗戦してからさらに10日間ほどに症状はみるみる悪くなっていったそうです。

 

 

そして

 

思えば前回の対局以来、電車に乗っていなかった。

正確に言うと、電車に乗るのが怖いのではなく、ホームに立つのが怖かったのだ。

なにせ毎日何十回も電車に飛び込むイメージが頭の中を駆け巡っていいるのである。

自然に吸い込まれるようだそうです。また生理的にごく自然に出た感情だった。ともおっしゃっています。一般的には○○を苦にと思い悩んでの末の行動と考えてしまうかもしれませんが、発作的なものだということが分かります。

 

 

幸いなことに精神科であったお兄さんの勧めもあり慶応大学病院精神神経科へと入院します。

 

うつ状態のときは、まず目に出る。

妻によると目の奥の精気が全くなくなるのだそうだ。

そして顔全体の表情が消え、能面のようになり決して笑うことがない。

自分では笑っているつもりでも他人にはそう見えないのだ。

この時は気ごころしれた仲の人と会うのが嬉くともどんどん疲労してしまい音や声にも敏感になっていきます。

話の内容自体で疲れるのではなく声が背中まで突き抜けて響いたり頭の芯に響くような感覚だったそうです。

 

 

睡眠薬を飲んでも眠れなくなっていきます。

うつの不眠の辛さは凄まじいものがある。(中略)

頭の中に靄がかかっているくせに、悪いことだけ考えられるのだ。

起きながらずっと悪夢を見るよりないわけである。

 

病院の朝食は8時だったそうですが4時くらいには目が覚めるもののその時間まで体が硬直して動けなかったそうです。

そんな時お兄さんは『時間を稼ぐのがうつ病のすべてだ』『絶対に良くなる』と極力短い言葉で絶えず励ましていたそうです。

うつが最もひどいときは全てがモノクロの世界だったそうです。

そして2か月が経つ頃には回復期へ徐々に移ろうとしていました。

 

 

ヒマだ、あーどうしよう、という考えはうつの人間にはないのである。

焦りとも違う。焦りは人の心が生み出すものだがヒマを感じないというのは、

うつの症状そのものといってもよいのではないだろうか。

 

頭と体は少し軽くなってきましたがそれでも霧が覆っている感じでぼーっとしていたそうですが退院を認められ家で生活することになります。

その際に医師に言われたのは

・生活リズムをつくって朝食を必ず食べること

・日中はできる限り家にいないこと

つまり散歩することです。

 

これは太陽を浴びることでメラトニンを賛成して睡眠を助け散歩で運動することによって脳内のストレスを緩和させる効果を見込んでのことと思います。

ここで精神科のお兄さんも『散歩ほどいいものはない。』と言っていたそうです。

 

また、先崎さんがこのお話の中で非常に助けられたという言葉があったそうです。

 

それは後輩の女流棋士の方との会話の中で、うつを患ったあと「仲間に会うのは君が初めてなんだ。」と言った後の

『光栄です。』

弟弟子の中村太地さんが羽生善治王座に勝利しタイトルを獲得した後に師匠の米長さんのお墓参りに行く時に「太地、おめでとう。」といって握手をした際に

『ありがとうございます。先生の長年のご指導のおかげです。』

という2つの言葉です。

 

人間は自分に存在価値があるというようなことをいわれるのが一番嬉しいのだ。

 

と言っています。また後輩たちがこのようなことを言うのはある程度想定内だったとしても自然に聞こえてきたこの言葉にとても心を揺さぶられたそうです。

 

そして当事者の先崎さんはうつをこのように表現しています。

 

本物のうつ病の症状を当事者としてひと言でいうと無反応だ。

喜びにも悲しみにも反応が無くなってしまう。はじめは悲しいとか辛いとかで単なる

『うつ状態』なだけかもしれないが、病気となり一線を超えるとあらゆる感受性が消えてしまう。

それは人間の生理的な反応なのだろうが、もっと動物的なものだと思う。

人間の進化した脳はとはいえども、所詮は類人猿の一器官に過ぎないのである。

いうまでもなく本書における『うつ』という表現は、

生理学的で動物的な『うつ病のうつ』のことである。

 

 

うつ病という言葉は巷では聞きなれた言葉になっていますがご本人は体験されて

『うつ状態』と『うつ病』が全く違うものであるということをおっしゃっています。

 

余りにも聞きなれた言葉となってしまいましたが先崎さんが極悪期としている辛い時は考え方や行動をどうにかするという以前の問題で主体的であるはずの自分が全く無秩序になり自分ではどうしようもない状態だということが理解できます。

 

本を読み進めていくと回復に向かって文章の表現や感情が変動していくさまをリアルに感じるのでご本人が今うつではないかという方以外にも周囲にもしかしたらうつを抱える方も読んでみると色々とサポートになるものではないかと私は思います。

 

また先崎さんは(私の場合は)という言葉もところどころにちりばめられているのであくまで個人の感想として書かれていますので自然で読みやすい本でした。

 

ご興味のある方はどうぞ。